段々と自分をジワジワ覆い尽くす黒い感情は消えることなく






あれから3週間は過ぎ、携帯も新しいのに変えてアドレス帳から柳生が消え、それ以外は以前の生活と変わりが無いように過ごしている。

柳宅に身を置かせてもらっているので家事などはなるべく俺がやるようにしているし、それが苦では無いと言えば柳も俺に任せてくれてはいるが、いつまでも頼りっぱなしで世話になっている訳にもいかない

それはわかっているつもりなのだが、どうにもこうにも柳生という『棘』は中々俺から抜けずに刺さったままその棘の刺さった所からはジワリジワリと辛さやら、悲しさが溢れ出ているようで惨めになってくる
追い討ちをかけるように色々夢にまで出てくるのだからたちが悪い俺が何をした?あぁアイツを愛してしまったせいか!自虐にはもう慣れた

1つ目の夢はただ犯される夢、いつもとかわらずにぶち込まれ貫かれるだけのただの行為これは現実でもあった、ただ自分は犯されたいだけなのだろうか?


またもう片方のよく見る夢では最後に会った時の様な暴言ではなく慈しむような、優しく俺だけを見ていてくれてキスをしてくれるようなまるで俺が求めていた柳生が夢の中だけれども確かにそこに居て柳生は語りかけてくるが俺が求めるとその幸せな世界は一瞬でボロボロと朽ち崩れ落ちていってしまうのだ
ここでも求めるなと言われているようで崩れ落ちて行く壁画のようなものに埋もれ苦しみもがいてハッっと目が覚めると手は宙を掴むように視界に入る


目覚めが良いか悪いかなんて悪いに決まっている、寝汗でシャツが纏わりつき気持ちが悪い。
この纏わりが柳生にとっての俺だとしたら「気持ち悪い」と思われるのも当然だなと笑う自分の中でこんなにも柳生が占めているのだと夢を見る度に嫌でも自覚してしまうこの瞬間が嫌なのだ

女だったらよかったとか恋をしなければよかったとか憂いても仕方が無いのはわかっている、そう考えてもどうしようもなかったのだと思いこませても、ただ純粋に愛していた、愛してしまった。

段々と肥大するあの頃の気持ちの押さえ方を誰か知っていたら自分が我慢出来たのなら、まだ親友としての位置に柳生の隣に居れたんじゃないだろうか

ボロボロになっていく想いと一緒に泣けたらどんなにスッキリするだろう、泣き方を忘れたのかなんてあの日柳に言われた言葉を思い出した

柳生への諦めや感情も涙のようにぴたりと止まればここまで苦しくなかったんだろうか
つっかえるような苦しくなる感情に飲み込まれないまま新しい仁王としての人生を歩めたのだろうか


「こういう女々しいのがいかんかったんか」


カラカラに渇いた喉からやっと出せた声
女々しくないようにとしていたのだけども、少しの逢瀬でばれていたのだろう

「なんも言わんかったとか流石紳士じゃぁのぅ」

嫌味は何もない部屋に消えて行く
今日は講義も何もない日なので昼まで布団の上でゴロゴロしていたいのだが、家事をしなければならない為にやっとの思いでダルイ体を奮起し起き上がる、少しでも自分についた「何か」を落としたくて風呂を目指した


少し頭も冷やそう、それがいい家事に没頭して考えない時間を作ろう今はそれしか出来ないのだから

何かに集中すれば時は早く流れてくれる



昼食を済ませ、残っていた家事をしていると柳からのメールに気付く
飯の有無は絶対に連絡すると前もって決めていたために柳の連絡は夕飯は先方のクライアントと取るためにいらないという内容だった柳のメールの文末にはあの日から無理はするなよという優しいお節介が加わるようになっていた

あらかたな家事をやり終えてしまったため、買い出しに行こうと考えていた仁王は少し考えるが明日の朝食の事もあるのでわかったと返事だけ上着を羽織り近くのスーパーへと足をすすめた




サラダにする野菜とあと飲み物だけ買って行けばよいかなんて考えながら歩いていると視界をかすめる身に覚えのある髪色格段銀髪という奇抜な色の仁王とは違い町中にいるハニーブラウンのような髪色で眼鏡の……
自分の中の時が止まったかのように動けなくなるのがわかる
こんなところにも追い打ちをかけに来たのか わざわざ「貴方はもう必要じゃない」と
恐ろしくなってガクガクと震える足には力が入らず座り込む


「大丈夫ですか?」


そんな優しさは今虚しいだけだと言うのに!!!
自分の中で葛藤して周りが見えなくなっていたが声をかけられ落ち着いてくる自分がいるだってそうだ、この声は柳生では無い
手を目の前に出され大丈夫ですか?と優しく問いかけてくれたこの人は柳生と同じ髪色をし、眼鏡をかけているサラリーマンだった。


「……すいません、大丈夫……です心配かけました」


恥ずかしさと虚しさでいっぱいになりながら、その差し出された手を取る気にはなれず立ちあがりそそくさと家に戻ると玄関の前で崩れ落ちた、呼吸が荒くなるのが自分でわかる落ち着けと思ってもドクドクと鼓動は早くなるばかりで一向に収まらない




「諦める……もう諦めるから俺の中からはよ出てって」





蜘蛛の巣に絡まって雁字搦めになったこの想いをどうにかして解放するから







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