柳生はキスをしない、それに気付いたのは付き合ってと言ったら傲慢すぎるかもしれないが、
体を繋げてから3週間程立った時だった。
その3週間からもう1年半は経っているがその間にキスをしたという事実は無い。
だから怖い体は繋げてもキスはしないそれは付き合っているのかと聞かれればさぁ?と答えるしかなく
「やきがまわっとるんかのぅ」

2年間片思いをひっそりとしていた、だからこの気持ちに応えてくれると聞いた時にはがらに
もなく柳生の目の前で泣いてしまった

だけれども今この状況を考えるとまだ片思いをしているようだ
電話も、メールも逢いに行くのも遊びに誘うのも全部全部こちらから行動に移さないと相手は
なんのアクションもしてこない
あぁ唯一アクションを起こすのは性行動だけだ。だけれどそれは仁王が自ら逢おうと行った日
にまるで体を繋げるのが当たり前のように「しましょうか」と業務的な口癖で言って来るだけ

そんな事は付き合って2か月でもう気付いていた。
だけれども言えないのは柳生が自分から離れるのが怖いから以外なんでもない。
愛して欲しいただそれだけなのに
男同士でここまでこれたのが奇跡と考えるべきか?互いにノーマルだったはずだ、中学生の時
は早熟していたため互いに彼女も居たにも関わらず彼を選んだのだ。

そうして恋人になって、幸せになるはずだった……


なのに何故悲しまなければならないのだろう?



ここ数週間まともに連絡をとっていないので仁王は簡潔に逢いたいと文字を打つ
【送信】を押して送ればいいただそれだけなのに何故か躊躇してしまう。
編集画面を開き「前においしいって言っていたパニーニの店明日いかん?午後からだけど」
と書きなおして送信した、逢いたいなんて独りよがりだ。相手はそう思っていないんじゃない
かとグルグル思考の渦に飲み込まれて行く、愛されたい、愛して欲しい
誰でもではなく柳生に。
見つめあって、あの唇から仁王君といって欲しい

ベッドでまどろんでいると携帯が鳴った個別に編集していないけれど多分柳生だろうなと
思い差出人をみれば柳生比呂士、こちらが送ってから30分で返してくるなど珍しい、時には疑
問で返しても3日など余裕で空けるあの男が。

受信メールなんて見なければよかった
「明日は、大事な用事があって無理です。また誘ってください」
この文がまた仁王を不安にさせるなんて知らずに
また誘ってください?自分からはアクションなんておこしませんと言っているものじゃないか
!あーそっちがその気なら一人で行ってやる。
そう怒るのは悲しみたくないから
誰か誘おうか、 この関係を知っていて話を聞いてくれる人物を無意識に携帯から探し電話を
する人の声が聴きたい
辛いんだ、泣きだしたい、寂しい、逢いたい、怖い。助けてほしい

「参謀……がえぇか」

柳生よりも柳で履歴がいっぱいになっているのをみて笑ってしまった
俺は柳と付き合っているのかなんて、柳の番号に合わせ電話をする


「明日パニーニの美味しい店奢っちゃるけん、話ば聞いてほしか」

唐突な用事でさえ柳は飲んでくれるのはこの関係を知っているから、そして俺のこの寂しさも
ただ逢う事を伝えればよかったのだが、我慢が限界を超えたようでいつもなら言わないような
事も無意識に伝えてしまう

「もう……わからんのよ、辛い  好きになるんじゃなかったって思う、いつも俺ばっかじゃ、何もかも、これって恋でも愛でもなんでも無いじゃろ」

柳が言葉に詰まったのがわかった
俺がここまで言うのは珍しいからだ。

「じゃぁ明日また連絡するけぇ……今の柳生には言わんとってな」

参謀が勝手にこういう事を言うはずもないのに釘をさす

そして握っていた携帯をベッドにほうり投げた
明日の1限はふけようこんな気持ちのまま行ったって何にもならない
もし、柳生がだ 他に好きな女性が出来ましたと言って来てもあぁそうだったのかとしか思え
ない、ずいぶんと俺は楽な性欲処理だったのだろうと

お前はこんな気持ち知らないだろうけど ただ愛して欲しいというのはこんなにも難しい事だ
ったのだろうか

うとうとと船を漕いでいると呼び鈴が鳴る
こんな時間に来る友人は知らないし、一瞬の期待をしたが瞬時に否定した柳生が来るはずが無

期待をするだけ無駄だと言う事を何度も経験したから
ムクリと起き上がり、相手を確認する

「……柳?」

「すまない、入れてくれないか?」

こんな寒い中外に出しているわけにもいかず、招き入れ、紅茶を差し出す

「いい紅茶じゃなか、市販のじゃけど温まるからのぅ……で、参謀用件はって言っても普通の
事じゃったらメールか電話でいいけん、やっぱ柳生との事じゃろうね。こんな時間じゃし泊っていけばよかよ、ベッドは十分にスペースあるけぇの」

二人分のベッド
埋まる事無い一人分のスペースに視線をなげ自嘲気味に呟く

柳は紅茶に口をつけつつ仁王の話に耳を傾ける


「同棲している訳じゃない、だけど部屋のベッドやデザインはあいつが決めて、だから期
待したんやけど……、もしかしたらなんてな……アイツがここで寝る時なんてやっている時だけでしか無くて 、ちゃんと朝目覚めたときに隣に居た時なんて無い、全部俺が言わんとどこにも行かないし何もしない俺が我儘なだけなん?恋人に愛して欲しいって願う事は駄目なん?俺が男だから駄目 なん?なんでアイツは……ただの性処理ならそれでよかった、気持ちに応えてくれなくてもこんな思いするくらいなら なぁ恋人って口づけしちゃいけないん?アイツ1回もしたことないんよ アイツがわからん、俺どうすればいい?怖い、あいつに女が出来たら多分俺に触る事はしなくなる、記憶から消すくらいの事はするよ 無かったかのように。聞いたら多分この 関係は終わりじゃろな 執着が無い 俺が何していようが、誰に抱かれようが」

「――!!仁王まさか」

今まで黙っていた柳が口をはさむ視線が交り合う


「いや参謀にしては間違ったデータじゃ  柳生以外抱かれた事はなかよ、柳生以外抱かれる
なんて嫌じゃ、」


柳生以外の指が、唇が俺を触るなんて嫌だ
だけれど柳生は?


「でもな参謀今日は一緒に寝てくれんかのぅ?抱けと言うてるんじゃなかよ?ただ隣で寝て欲しい」

「お前が構わないのなら俺は別にいいが」


「参謀は優しいのぅ」


あぁこれが柳生であったらと口には出せないけれどきっと参謀は気付いている

「ごめんな」と心で謝った言葉は誰への贖罪かはわからないけれど







目を覚ませば参謀が隣に居た、昨日の事を忘れていたわけではないが、多少吃驚した。
朝目で覚めて隣に人が居るという満足感に胸がいっぱいになる
朝日に参謀の綺麗な黒髪が反射してキラキラと光るのを見ながら昨日の提案した予定をきっと自分よりも早く目覚めたその背中にぶつ けた

「朝食兼お昼にあの店行こかのぅ」


この気持ちを少しでも変える為に、話を聞いてもらうために
ちょっとした誘いだったのだ。

大通りから少し離れた店にそこはあった。
なんとなく道を歩いていたらあそこにおいしいパニーニの店が出来ていたんですよなんて言葉を聞いた時からいつか行こう行こうと思っていた。
誰とその時一緒にたの?なんてやぼな事は聞かず


オープンテラスなどはないが中は広いらしい、外を見渡せるような大きいガラスで内装が少し
伺える
「よく見つけたな」
「見つけたのは柳生やけどな」
会話をしながら店に入ろうとした矢先に、柳に止められる


「なんなん?」

「今日はここではなくここら辺にあるパスタにしないか?」

今から入ろうとするのに何を言っているのだろうか、柳に押され体の隙間から店をチラリと見





あぁそうだったのか
自分はやけに冷静で、この状況を判断できた
今日会う事が出来ないのは、そう言う事で、俺が見たいと思ってた笑顔が『彼女』に向けられ
ている
導き出せる答えはただ一つしかないだろう

笑顔を見ていた瞬間柳生と目が合う
ハっとした顔と共に何故ここにいるのかという表情、そっと彼女に何か言いこちらに向かって
くる

何を言われるのか、わからない
ただわかるのはこの関係はもう終わりという事、柳が目の前に現れて俺と柳生を阻んだ

「何故……居るのです」
この言葉は俺と柳どちらに向けられた言葉だろうか
久しぶりやね、久々にちゃんと会った
俺の事を思って阻んだ柳をそっとどける

「久々やね柳生」自分でも落ち着いている声が出た、浮気されていたのに?
いや浮気じゃない、俺達は『付き合ってなどいなかった』そうだろ?

「何故、柳君とここに?と伺っても」

ほら、お前は俺を瞳に写さず柳を見ている

「昨日泊った、んで朝飯兼昼食って事でここに来た」
「貴方の部屋に?ベッドは一つしかないでしょう?一緒に寝たんですか?貴方が……誘った?
柳君が抱くわけないですもんね、優しくしてもらったんですか?」


ペラペラとよく口が回るもんだと侮辱されている言葉を吐かれていても何故か遠くに感じた

あぁと、柳生にとって俺は簡単に股を開くやつと、柳生と付き合っているのに男を見境なく誘うやつだと思われていたのだと、ならば今までの関係は簡単で、俺達は恋人なんかで無く柳生にしてみれば俺はただの性欲 処理だったのだと。
恋人だったのならこんな言葉吐かれなかったのだろうなと、自分を冷静に判断できた
まるで自分が第三者かのように
なぁおまんは知らんのだろうけど、柳生以外抱かれた事なんてなかよ、お前だけじゃった
この体全ておまんに捧げた勿論心も何もかも。
でも言ったって信じてくれん、詐欺師じゃもんな
昔から貞操観念が緩いんじゃないかと周りから言われつづけてきたけれども、ただの噂でしかなくて それをお前が信じているという現実を今はっきりとつきつけられている

「否定しないんですか」

「柳生、やめろ」

真実を知っている柳が耐えきれないのか口をはさんだ、もうえぇよ柳と言葉が出ない俺がうつ向きながら柳を手で制止する

「参謀は悪くないけぇ」
いくら第三者のように感じても、やはり柳生の顔が見えないようにと下を向いたまま制止する

「でしょうね」

全部、俺が悪かったのだ、柳生に恋をした時からもういけなかった
縛りつけてごめん、もう解放するよ 俺はお前に抱かれる事しかできなかったけれど

「じゃぁな」

何か言いたげな柳の腕を掴んで店から出て行く
逃げたくて、離れたくて

「―う!-王!!仁王!」

店から少し離れたところでやっと柳の声が耳に届いた
強めに掴んでいた手を離して柳に呟く

「付き合ってなんかなかった」
「仁王……?」
「アイツは最初から俺と付き合って無かった、ただそれだけだったんじゃ、俺が勝手に勘違い
しとっただけ感情なんてこっちに向かってなかっただけそれだけ、」
「仁王!!」
「付き合わせていただけ、俺の気持ちに、勝手に不安になったのもそりゃそうじゃ女が好きなら」
「何故柳生を責めない!!!お前が悪いんじゃないだろう!?」
「ちゃうよ参謀、俺が好きになったのが悪かったただそれだけじゃ、あそこにもう帰れんな、解約 せんと、時間掛かるけぇ柳生が来たらどうしようか、まぁ来た事ないけどなぁ新しい住みか見つかるまで居座ってえぇ?家事は出来るき、なんでもえぇよ――――抱いても」

あれほどまで嫌悪した柳生以外からの接触がどうでもよくなってしまったいいんだ、愛されな
い体ならば。

「ッ!俺はお前を抱かない……!!だが住みかは提供できる今から家から車を持ってくるお前
は家に戻って荷物をまとめろ、変な気を起こすなよ、いいか?」

参謀は優しいなぁと、そんな優しさに触れても自分から涙は出てくれないけれども、きっと枯
れ果てたのだろう。


何も考えられずに家に着き大きめのバックを出す、大学の参考書や服など日用品も詰め込むと
ガランとした部屋になる、
こんなにも彼の思い出は無い部屋だったか、まぁほとんど来なかったのだから当たり前なのだ
が、思い出も抱かれた記憶しかない部屋でぼんやりと時間がたつのを待っていると携帯が震え柳が車で到着したのがわかった。


「すまんの、」
「お前が謝る事ではないだろ」
「無いのはわかって言うけど、なんも言わんでなアイツに聞かれる事も無いけど」
「―――あぁ」
「バイトも変えるって考えたんやけど、アイツ俺の働いているとこ知らんけ、無関心がこんなと ここで役立つとは思いもよらんかった」

そこから車内は無言で、だけれどもその空気がよい
柳は人の心に敏感で俺は踏み込まれるのを嫌うからだ

「着いたぞ」

何回か来た事のある柳の部屋に踏み込む
サヨナラだ、柳生
荷物を整え開いている部屋に通される
「お邪魔します―……あー布団買いに行ってもえぇ?」
「あぁならば色々買いに行くか、多分足りないものが多すぎる」

いい友人を持った

携帯も解約して新しいのを買おう、全て捨てる
愛されていなかったのだ、何も執着するものは無い

「布団と日用品とあと食材と―携帯解約して新しいのを買うけ、ショップにも行きたい」

「最近出来たモールに行ってみるか、携帯ショップも入っていると聞いた」

「ほぉか流石データマンじゃのぅ」

幸か不幸かバイトで溜まっているお金がある、いつか使おうと思っていた金がこんなところで
役立つとは思っていなかったけれど


「飯、食いそびれたけぇ、奢っちゃる」











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